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東京地方裁判所 昭和42年(手ワ)1120号 判決 1967年12月21日

原告 村川哲一

右訴訟代理人弁護士 佐藤操

被告 坂本俊夫

右訴訟代理人弁護士 佐藤直敏

主文

被告は原告に対し金五七万二三〇〇円およびこれに対する昭和四二年三月二〇日以降右完済まで年六分、の割合による金員の支払をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

原告は「被告は原告に対し金五七万二三〇〇円およびこれに対する昭和四二年三月一日以降右完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。

原告は被告が振出した金額金五七万二三〇〇円、満期昭和四二年二月二八日、支払地振出地とも東京都中央区、支払場所静岡銀行銀座支店、振出日昭和四一年七月一四日、振出人坂本俊夫、受取人桐生英男なる約束手形一通を昭和四二年一月三一日右桐生より裏書譲渡を受け、これが所持人となり満期に支払場所に呈示して支払を求めた。

よって、右手形金およびこれに対する満期の翌日以降右完済までの遅延損害金の支払を求める。

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、原告が原告主張の記載ある約束手形を所持しており、右手形が形式上裏書の連続している事実は争わないが、その余の原告主張事実はすべて否認すると述べた。<証拠省略>。

理由

<証拠省略>を綜合すれば、原告主張の約束手形は次のような経過で作成せられたものであることを認めることができる。即ち、

訴外三和機械工業株式会社は被告の代表する城北設計工業株式会社の下請をしていたのであるが、右訴外会社の代表者山本三郎は被告の紹介で原告から手形割引により資金の融通を受けることになった。ところで、被告は右紹介をするに当り、原告に対し右訴外会社に対し月間二〇〇万円位の限度内において割引を斡旋し右の限度内での割引について被告がこれを保証することを申出てこれが担保として金額、満期、支払地、振出地、振出日を空白とし被告の署名押印した約束手形を担保手形として原告に交付した。右山本三郎は訴外株式会社後藤鋼商店振出の約束手形一通ほか一通の約束手形の割引を依頼し、割引を得たのであるが、さらに右後藤鋼商店振出の金額金五七万二三〇〇円の約束手形一通(甲第二号証)の割引を依頼した。原告はさきの後藤鋼商店振出のものが未だ満期前であったので直ちに割引依頼に応ぜず、被告に照会しその諒解を得てから割引いたのであるが、右約束手形(甲第二号証)が不渡りになったので、原告は被告に通知し、前記担保手形の空白部分(但し振出日は除く)を補充記載した。そしてその後に右担保手形に振出日が、補充記載せられて原告主張の本件約束手形が作成せられた。

以上のとおり認めることができ右認定に反する被告本人尋問の結果は措信できない。他に右認定を左右する証拠はない。

右の事実によれば、本件手形は被告が前記のとおり金額、満期等を白地として振出し、訴外桐生英男に交付したものと認むべきである。しからば、他に抗弁なき本件においては被告は振出責任を免れない。

しかして、右桐生英男から原告が裏書により譲受けたことは甲第一号証の一の記載および前顕桐生英男の各証言によって認めることができ、原告が現にこれを所持する事実は被告の争わないところである。しかしながら、原告において本件手形を満期に支払場所に呈示したことは成立に争いない甲第一号証の二によって明らかであるけれども、本件手形の写であること当事者間に争いのない乙第一号証によれば、右支払呈示の際には未だ本件手形の振出日は未補充のままであったことは明らかである。したがって右支払呈示により、原告は遡及権を取得することなく、被告は遅滞に付せられることはないといわねばならない。

しかしながら、原告が右白地部分を原告主張のとおり補充して本訴を提起したこと本件記録上明白であるから、右訴状の送達によって被告は手形金支払債務につき遅滞に付せられたものとしなければならない。

しからば、原告が被告に対し、本件手形金およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日たること記録上明らかな昭和四二年三月二〇日以降右完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において本訴請求は理由あるをもって正当として認容すべき<以下省略>。

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